Lablog1-166:PpL1とPpLC3の発現特性、生産濃度、抗体結合活性の比較

Year

Date 2024-03-18

Details of results

 <背景・目的>
 本研究室において発現実績のないシングルドメインProtein Lを利用するにあたり配列の異なるPpL1とPpLC3を設計した。今回の検討では2種類のPpLの発現量や抗体結合活性を比較し、より優れた方を決定することを目的とする。

<実験操作> ※詳細は添付資料を参照
1. 遺伝子組換え大腸菌を用いたPpL1及びPpLC3の発現
2. 陰イオン交換クロマトグラフィを用いた精製条件の検討と精製後の生産濃度の比較
3. SPRセンサーを用いたPpL1及びPpLC3のヒトIgGに対する親和性評価
4. ELISAによる固相化後のPpL1及びPpLC3のヒトIgG結合活性測定

<実験結果と考察>
1. PpL1及びPpLC3の発現量比較
 Fig. 2に示す種々のPpL1プラスミドベクターを用いて大腸菌を形質転換し各画分における発現量を比較した。生産後の各培養画分のSDS-PAGE及びWestern BlottingをFig. 3に示す。結果より、PpL1及びPpLC3はシグナルペプチドを導入していないにも関わらず培養上清中に分泌生産が可能であり、PpL1の方が培養上清、菌体内可溶性画分、菌体内不溶性画分の全てにおいてバンドが濃く、総発現量が多いことが明らかとなった。またPpL1及びPpLC3においても加熱処理によって夾雑物のみを凝集させ除去できることが明らかとなり、PpLの熱処理法による粗精製の有用性が示唆された。PpL1及びPpLC3のいずれも培養上清から回収することとし、精製条件の検討を行う。

2. PpL1及びPpLC3の精製条件の検討
 Human IgG固定化カラムを用いたアフィニティ精製ではカラム容量が小さく大量に精製できないことが課題であった。そこでPpL1やPpLC3の等電点が低いことに着目し、陰イオン交換クロマトグラフィを用いた精製を試み、pH条件の検討を行った。
PpL1の結果をFig. 6及びFig. 7に示す。僅かに高分子量のバンドが確認されたものの1つ目のピークに高純度のPpL1のバンドが確認された。緩衝液のpH条件の検討では、pHが高くなるにつれ1つ目のピークがブロードになる傾向が見られた。溶出画分をタンパク質定量した結果をTable 1に示す。pH 6.0 で吸着、溶出を行った際に、最も高い濃度でタンパク質を溶出することができた。また、クロマトグラフに見られる2つ目のUVピークは、260 nmにピークがみられたことから、DNAなどの非常に小さい分子量の物質が単離したと考えられる。PpL1はpI 4.5であるため、pH 5.0 ~ pH8.0 の条件ではどのpHであっても溶出できると考えられる。しかし、pH 5.0、pH 6.0で精製を行うことで、高濃度に溶出できることが明らかとなった。
PpLC3の結果をFig. 8及びFig. 9に示す。PpL1と同様に緩衝液のpHが高くなるにつれて、溶出ピークがブロードになる傾向が見られた。SDS-PAGEの結果から、pH 8.0における溶出ピークは、非常に低濃度であることが示された。ここで溶出ピークをタンパク質定量した結果をTable 2に示す。緩衝液のpHが高くなるに従って、得られるPpLC3の濃度が低くなる傾向がみられた。緩衝液のpHが高くなると、PpLC3がもつ表面電荷が変化し、立体構造に影響を与えてしまったのではないかと考えられる。PpLC3はpI 4.7であるため、pH 5.0 ~ pH8.0 の条件ではどのpHであっても溶出できると考えられる。しかし、pH 5.0で精製を行うことで、高濃度に溶出できることが明らかとなった。

3. PpL1及びPpLC3の抗体結合評価
[SPRセンサーを用いたヒトIgGへの親和性評価]
 精製したPpL1及びPpLC3をアナライトとし、ヒトIgGリガンドに対するアフィニティをSPRセンサーを用いて測定した。センサーチップCM5-ヒトIgG(リガンドの最終結合量:8433 RU)に対し、12.5 ~ 0 µg/ml に調製したアナライト溶液を添加した。カイネティクス解析により得られた結合速度定数kon、解離速度定数koff、解離定数KD、リガンドへの最大結合量RmaxをTable 3に、測定時に得られたセンサーグラムをFig. 10に示す。Table 3より、解離定数KDの値は僅かにPpL1の方が低いことが示された。PpL1およびPpLC3において、konは比較的高い値であるが、koffが非常に高い値であった。

[プレートへの固相化後のヒトIgG結合活性評価]
 プレート上へ固相化後の各PpLの抗体結合活性を評価するため、モデル抗体であるヒトIgGに対する結合活性を測定した。PpL1及びPpLC3をMaxisorpに固相化した後に、myc tagによって検出した実験系と結果をFig. 11に示す。また固定化後のヒトIgG結合活性測定の結果をFig. 12に示す。Fig. 11よりPpLC3と比較するとPpL1の方がより低濃度で活性が飽和しており、固定化可能な分子数が多い可能性が示唆された。ここで、Rabbit anti-myc IgG-HRPはポリクローナル抗体であり、全ての分子がmyc tagを認識しているとは限らず、一部の分子はPpL1のVκ軽鎖認識部位と相互作用している可能性も考えられる。よって今後はmyc tagを持たない市販のProtein Lを用いてRabbit anti-myc IgG-HRPのPpL結合性を調査する必要がある。
Fig. 12より、PpL1及びPpLC3の固相化後のヒトIgG結合活性を比較すると、PpL1の方が僅かに低濃度側で活性が飽和し、アフィニティが強い可能性が示唆された。この結果はSPRセンサーを用いて測定したKD値がPpL1の方が僅かに低い値であることと一致する。

<結論>
 PpL1とPpLC3はヒトIgGに対して同程度のアフィニティを示したが、発現量やより温和な条件で精製が可能であることを踏まえ、今後の研究ではシングルドメインProtein Lを利用するにあたってPpL1を採択する。また、今後はpH 6.0の条件でPpL1の精製を行う。

Keywords

PpL1, PpL1C3, Anion-exchange chromatography, Antibody binding activity

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